blank bottleが満たされることはあるのか

※この記事は隅から隅までSpace_第2回公演「blank bottle」の話しかありません。ご覧になっていない方はなんの話だ、となってしまうと思います。ご注意ください。


Space_第2回演劇公演「blank bottle」が終わりました。

お越し頂いた皆さん、本当にありがとうございました。

色んな思い入れがありまして、街を歩けば演劇の体に当たってしまうようなとんでもない引き摺り方をしてしまっています。

個人的なお別れのために文章を書きますのでもし私も同じだ、みたいな人や、裏側が気になる、みたいな人は読んでください。

すごく個人的な上長いと思います。

橋谷です。

今思い返しても、広かったなあ、と思います。

今回公演を行ったイムズホールは、当たり前のように私たちには到底及ばないほど素晴らしいホールで、今回イムズホールラストイヤープロジェクトの一環として採択頂き、公演をすることが叶いました。

一回公演にも関わらず沢山の方にご来場頂き、コロナ対策の客席縮小と言えどもイムズホールでチケット完売だなんて、本当にありがたい限りです。結局のところ一体誰なんだ、となっておられる方もいらっしゃると思います。

ですので自己紹介を交えながら各々に感謝を述べていきたいと思います。

毎度のことながら私の隣にいてくれた素敵すぎる仲間の紹介も挟みますので、そこに限っては羨ましい、と思ってください。

では、以下全て感謝です。

私たち、Space_(スペースアンダーバーと読みます。)は、4人組のアートユニットです。2018年の春、全員が高校在学中に作ったので多分3年目です。

現在は、大学生の橋谷(19歳)と4月から社会人の草場(20歳)が東京。大学生の木庭(19歳)とこないだ高校を卒業した渡邉(18歳)が福岡に住んでいます。

全員福岡出身、同じ高校の演劇部出身です。

ですので私たちは演劇もしますし、演劇じゃないこと(映画を撮ったり、雑誌を作ったり、文章を書いたり、ラジオを撮ったり)もしますし、福岡で活動しますし、東京でも活動します。

演劇に限ると、基本的には橋谷が脚本・演出・宣伝美術、草場が照明、木庭と渡邉が役者とその他の役割を果たします。

先述したように私たちSpace_での演劇公演は今回の「blank bottle」が2回目で、旗揚げ公演と言うべきか2年前に箱崎という町のハコ町屋と言う古民家で「Pool」と言う作品を上演しただけでした(40人キャパを3回公演くらい)。

それを最後に私たちは福岡と東京での遠距離創作を余儀なくされ、いろんなことをちまちまとやっていたわけですが、一年半くらい経った2020年11月に私が東京で打った「不確かな空腹」という演劇脚本のインスタレーション公演にメンバーを加えることで演劇(らしきもの)を作ることの再開に成功しました。


仲間①ちよちゃん:地下アイドル 笹川漂

ちよちゃんは、私から見ると2つ下の後輩で、高校演劇で一緒に何かをやったことはありません。それこそ「不確かな空腹」で役者をやってもらっていて、インスタレーション公演だったばっかりに声だけでの出演だったので私は作っている最中、この子を実在する身体として、舞台の上に立たせたいなあとずっとずっと思っていました。

稽古中ずっと笑っているのを眺めていたのですが、歳の上の先輩たちとも対等に会話しているのを見て、すごくフラットな存在が舞台上でも変わらず魅力的でした。

体が小さいのに大きい舞台でも見劣りしないのがすごい…

笹川という役は凄く飄々としているというか、ちよちゃんがフラットだったおかげで全体に安定が生まれて笹川がぽつぽつ喋るたびに、地に足ついてる感じが増して、邪念なく笹川と高橋の会話を見れてすごいなあと思いました。


私は東京で演劇を作っていて、ずっと思っていました。福岡で演劇が作りたい。

それはなんというか、すごく純粋に、演劇を作るという作業を楽しむみたいな、かつての私が単純にこなしていたことがあったことに気付いたからです。

東京に出てきてからというもの、私はいかにこの居場所を守っていくか、みたいな。

コロナという状況も相まって演劇との距離感を掴むのに困難を極めていました。


仲間②まなみ先輩:少女漫画家 藤野市

私が演劇を教えてもらったのは、紛れもなく高校時代、学年が一個上の先輩たちでした。

私が入った2016年度の演劇部で部長をやっていたのがまなみ先輩です。

まなみ先輩はあんまり焦ってるみたいなところを見たことがなくて、迷ったらとりあえずまなみ先輩に相談して、うんうん、と聞いてもらってああ、大丈夫だ。となっていた気がします。

なんというか今回、久しぶりに先輩たちと一緒に演劇を作って、隣に先輩たちがいるという状況が、いかに走りやすいか、みたいな。自分がどういう環境で演劇を作り始めたかみたいなそういう先輩たちの繊細な仕事の一つ一つをありありと見つめることができて、すごく幸せだったし、ここに、確かに居場所が残っていることが感触として残っていて、すごくありがたかったです。

藤野という役は一応主役なんですが、シーンごとにいろんな表情が出てきてどんどん立体的になっていくみたいな、あまり幸せな役ではなかったけど、可愛がられて、よかったというか、個人的に救われた役だったので、ああ、藤野がいる、うれしい、となりました。


仲間③こば:切り花の観察日記 竹内灯

福岡で演劇がやりたいという話を最初にしたのは確か木庭だった気がします。

木庭は紛れもなくSpace_のメンバーです。私の、一個下の後輩で、勿論「不確かな空腹」にも出ていたのですが、その辺りの時期に活動以前に私は木庭とコミュニケーションを取ることにハマっていて、電話したり、アニメをみたり、ドラマを見たり、文通したり、色々やっていました。

私は割とメンバー以外の人を誘うみたいな行為をどうしたものかと思っていたのですが、木庭に相談すると一気に繋ぐ作業をこなしていて、いつの間にそんなに実務能力高くなったんですか?となっていました。

ちなみに木庭のやった竹内という役は第一回公演「pool」に出てきた役で、その虚な佇まいが私は大好きで、私は木庭にあまり救われる役を当てることがありませんが、セリフをいくらやり直してといっても弱音を吐きませんので、私は納得いくまでやり直しを要求します。


私はずっと福岡で演劇がやりたかったし、ずっと演劇で再会したかった人たちがいたので、どういう形態だったら、納得がいくだろうかと考えていました。

そこで見つけたのがイムズホールラストイヤープロジェクトだったわけですが、如何せん手続きが色々とありますし、選考もあるので演劇の作業と並行させるのが今の人数では無理がありました。


仲間④ありさちゃん:制作

ありさちゃんはちよちゃんと同じ代の後輩で、私から見ると2つ下の後輩です。

一緒に演劇を作ったことはありませんが、物怖じしない佇まいで何回か喋ったことがありました。数少ない演劇関連で連絡をとっていた後輩の一人だったので、公演が決まってから裏方で入ってくれないかという話をしました。今回も幾度となく急なお願いを頼んだにも関わらず色んな外部の方とお話ししたり、アポを取ったり、買い出しに走ったり、役者の読みに付き合ったり普通の顔してやってくれるので心強かったというか、何かあってもありさちゃんがいる、という気分でやっておりました。


そういえば、私がホールで演劇をやるのは高校で出た大会以来で、それ以来私はずっと小さいギャラリーとか古民家とか学校の教室とかで抽象舞台を作っていました。


仲間⑤はっしー先輩:カラオケバイト 隅椋平

はっしー先輩というのは私と同期の人です。歳は一個上なので先輩と呼んでいますが特に意味はありません。

私が初めて脚本を書いて出た大会ではっしー先輩は一緒に賞状とかトロフィーとかをもらってくれました。

思えばあの脚本から私の演劇人生は狂っていて、ここまで脚本を書き続けることになっています。

隅という役は、そんな私が初めて書いた脚本で賞をもらった演劇ではっしー先輩がやっていた役で、当時はまだ数学ヲタクのイケメン家庭教師でした。

思えば同期の男の人ははっしー先輩だけで、私ははっしー先輩が私を可愛がってくれるのをいいことに毎回毎回、シーン終わるまでにルービックキューブ終わらせてくださいだの、一人4役やって下さいだの無理難題を要求して病ませていました。

だけど変わらず今まで公演があれば長文の感想を送ってくれ、無理難題な役も最後には帳尻を合わせてくれ、なんか今回の隅は、思いがけずはっしー先輩っぽかった。

いつもありがとう、はっしー先輩。


仲間⑥古賀先輩:高校生 隅その子

そんな隅の妹、その子。

古賀先輩はまなみ先輩と同じ代の先輩で、私から見ると一個上の先輩です。

古賀先輩とは実は多分小学校、中学校も一緒のはずで、いつもどこか近くにいます。

先輩が卒部してからも、他の先輩から近況を聞いていたりして、会っていない間も、近くに存在は感じていました。

古賀先輩は気になったことはすぐに確認してくれるし、進んでシーン練をやってくれるので、なんというかその子はちょっと気難しい役だったけど、本番中、光に照らされるその子を遠くから見ているとなんか神々しくて、いつもちょっと不安そうな古賀先輩の横顔も、全部その子の奥行きに加担していて、ああ、なんて綺麗なんだろうと思いました。


Space_の演劇といえば照明だと言われることが多々あるのですが、それは紛れもなくメンバーが4人しかいないにも関わらずその中に照明担当がいるからで、今回の公演にホールが使いたかった理由の一つに、あい子に照明卓が触らせたかったというものがありました。


仲間⑦あい子:照明・演出助手

あい子はSpace_を私と立ち上げた人で、同期です。

照明がやりたくて演劇部に入り、照明の専門学校に進学し、照明としてこの春就職します。

なんとか活動続行の術を考えますが、とりあえず区切りではあるので大会以来のホールで照明を私はどうしてもあい子に触って欲しかった。

私はいつも照明に関してはほとんど口を出さないし、ホールの技術さんともあい子が喋っていました。ベクターワークスで照明の図面を引いて、私の位置付けた舞台に合わせて全て照明を作ってつけていました。あい子の仕事量と孤独は、私には計り知れません。

なんというか、私も本当に私たちの演劇は照明ありきだと思うし、よくここまで照明一本で渡り歩けるなと思います。

あと、私が投げた仕事を真っ先に拾うのはいつもあい子なのであい子には頭が上がりません。いつも隣にいてくれてありがとう。


仲間⑧小林くん:照明・制作

そんなあい子に頼られ東京から福岡まで来てくれた小林くん。

知り合いが誰一人いない福岡で技術さんと照明をこなし、あい子を支えてくれました。

私たちが埋められるはずのないあい子の穴を埋めるのには十分すぎるくらい良い男の子でした。

口説いているのかと思うほどに優しい言葉がすらすら出てくるので一体なんなんだとも思いましたが小林くんの多面的な仕事に本当に、本当に助けられました。


今回の制作中、Space_メンバーが常駐している家というものがあって、そこで稽古をしていました。


仲間⑨だい:陰アナウンス・制作

女3人の寝床で一緒に寝てもなんとも思わない男だい。

大はSpace_のメンバーです。私から見ると一個下の後輩です。

私は大が演劇部に入ってきた頃から彼の佇まいが大好きで、声が小さく滑舌が悪いにも関わらず彼を幾度となく主役の座へと置いてきました。

受験があったので今回は裏方でしたが、当日急遽投げた陰アナウンスを練習する彼はやっぱりすごくよかったし、上演前から私は彼の陰アナを聞きながら心酔していました。

大は体力があるので何を頼んでも何食わぬ顔でこなしてくれるし、いてくれるだけで安心感があるので私たちは幾度となく彼を隣に置き、漫画を読ませ、ご飯を食べさせ、話を聞いてもらい、仲介役を頼み、安心していました。

彼の声から上演が開始できて、これ以上ありません。


2021.03.19. 18:00~


仲間⑩臼杵先輩:法律事務所事務員 高橋あゆむ

臼杵先輩は私の一個上の先輩です。

「blank bottle」は、高橋が舞台を片付けるところから始まります。

舞台が始まり、先輩が光に照らされうっすら浮かんでいるようなそんな空気を眺めていて、思い出したことがありました。

私は、先輩たちが卒部する2017年の春公演で初めて演出をやりました。その時の脚本が臼杵先輩が書いたものだったのですが、思えばそこからずっと、私は私の身の回りに起きたことや、困っていることの全てを、臼杵先輩に話してきました。

先輩が卒部し、卒業し、私が卒部し、卒業し、お互いに上京してもなお、ずっと話をしてきました。

なんというかとりあえず先輩はずっと私の隣にいてくれたし、困った時に幾度となくピンチヒッターをやってくれたし、何時間でも話を聞いてくれるので、私はとりあえず全てを先輩に話して、日々の、瑣末なことも、演劇にしてきました。今までの、全ての演劇です。

だから、先輩が就職する前に、ちゃんと一緒に演劇が作れてこれ以上ないというか、私はとりあえず、今までの、臼杵先輩の全てに感謝しなければいけませんでした。


私はやっぱり、高校演劇で演劇を始めたので、あそこで会った人たちのことは、常に演劇にしたかったし、演劇にすることが、一番の愛情表現だと思って動いていたところがあったりしました。

だから、どんな形であれ、あの学校のホールやそこからの広がりで見てきた、行われた、動きや、言葉や、些細な、積み重ねが、演劇になればよくて。だから遠くで、照らされている知った人の体の動きを見ていてやっぱり思い出すのは、私が今回演劇を作ったメンバーとの関係だけじゃなく、もっと広くて、もっと深い、私の手にはもう及ばないとこにある居場所だったものの些細なエピソードです。

現実では、理解し難いことや、及ばないことが多々あって、戸惑うけど、私は演劇をやっていると誰と一緒にいてもひとりぼっちだし、それでも私を形作っている全ての瑣末なことを良い悪い関係なく、全て受け入れられるので、すごくよかったと思います。だからとんでもなく寂しいし一人一人との関係の不確かさに絶望しますが、この、大きな流れの中で、演劇が作れたりすると、私、帰って来れてよかった、と思ったりしました。

あの大きなホールで、美しい舞台の中で、大事な人たちと再会できたこと、すごく誇りに思います。

居合わせてくださった皆さん、本当にありがとうございます。


今回の公演に当たって、多大なるご尽力を頂きましたイムズホールの山本さん、大塚さん、エスエルアイの冨賀見さん、照明スタッフのみなさん、事務局の田中さん。

いつも急な連絡にも関わらず素敵な机と蝋燭と照明機材を用意してくださったアーリーバードの大津さん。

尋常じゃない量の舞台道具を運んで下さったスターフライヤーの方々。

また、今回私たちの意向によりチラシ折り込み等一切行いませんでしたが、ご連絡くださった皆さん、申し訳ありません。


余談ですが、今回表題曲のようなものがあって、オープニングとエンディングでかけた曲なのですが、LILILIMITというバンドの「FEEL IT」という曲です。

思い出しついでに聞いてみてください。

LILILIMITというバンドはもう解散してしまったのですが、実は私が初めて書いた脚本で出た大会(草場が照明、渡邉が主役、木庭が舞台監督、はっしー先輩が隅)で表題曲にしたのもこのバンドの曲で、私たちのユニット名である「Space_」も、そこで流した「Space R」と「Space L」という曲から来ています。


最後にこんな話をするのはアレなのですが今回非営利での公演でしたので、大赤字なのです。当たり前ですが。

今後何かしら回収の術を考えますのであの公演よかったな、と思ってくださった方がもしいたら気にかけてくだされば幸いです。


言えることは全て言いました。

ここまでお付き合いいただいた皆さん、ありがとうございました。

では、これにて「blank bottle」おしまい。

関わってくださった全ての方、本当にありがとうございます。

また、どこかで会いましょうね。


脚本・演出 橋谷一滴




「blank bottle」

Chapter25 少女漫画「失恋魔法少女」より主人公ミルの手記

「寂しくなった数だけ、私の居場所は、あったのだと思う。寂しくなった時間さえ、私の居場所だった気もする。私はこの山積みの寂しさを、山積みの居場所を、できるだけ美しく、保管しなければいけない。だからここで、私はちゃんと暇乞いするのだ。

いつか私を形作った君へ。

ここに、未来があるように。」

0コメント

  • 1000 / 1000