person 34 作・橋谷一滴
大学時代、飴をもらった。
もらったその当時、飴のことなど本当のところどうでも良かったのだが
今この飴を見ると
ちゃんと記憶が蘇ってくれるので
捨て切れず
食べ切れず
である。
仕事が山済みのときに限って部屋の掃除を始めてしまった。
コートのポケットから出てきたこの飴は先輩からもらったものだ。
「猫と恐竜って似てるよな。」
と、先輩は言った。
「二人とも立った時さ、足の先がクイってなるやろ。四足歩行やし。」
先輩は名前をななえと言い、私は先輩によく
「先輩、ななえっぽくないですよね」
といった。
「私、恐竜と猫にだけは一生勝てないと思う。」
と、毎日訳のわからないことをいう先輩に
私は少し憧れていた。
何年か経った。
先輩には今会っていない。
最後に先輩に会った時、私たちはそれを、多分最後だと思わずに過ごした。
先輩は私に飴を投げて
「甘いの食べときゃなんとかなるよ」
って。
なぜ私たちはそれを最後だと思うことができなかったのか
もしかすると先輩はわかっていたのかもしれない
先輩がは途中で大学に来なくなったのだ。
恐竜と猫にしか負けると思っていなかった先輩は何に負けたんだろうか。
わからないけど先輩のことだから何か楽しいことをしているだろう。
飴の封を開ける。
甘いの食べたからなんとかなります
多分。
2018年12月8日
橋谷一滴
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