person 44  作・堀愛子

松岡美緒(まつおかみお)21歳。

カーディガン羽織るだけじゃ足りないみたいね。

昼まではあったかかったはずなのに。

イブの夜、すっかり冷え込んでる。夕方17時から、コンビニでお酒とおつまみとパンとチキンを買って電車に乗った。

歯の白い彼と。

キャラメル色の髪の毛と少し焼けた肌。白いスキニーにジージャン。ほぼ毎日会ってるんじゃないかってくらいに会ってるんだけど。ダンスできるでしょ、って言ったら彼は嬉しそうに笑う。

横顔と流れる街の明かり。イルミネーションなんてどうでもいいんだよね、実際。

とっても綺麗だった。いつも綺麗だけど、

イブの夜はサンタ以外楽しみなんてなかったから。

ふと乗客を見る。わたしと同じような格好してるカーディガンの女の子はひとりでイヤホンをさして外を眺めている。流れるこの綺麗な景色はどんな風に映ってるんだろ。

わたしは白い歯の彼と下車する。

知らない駅に。ふたりで。

カーディガンの女の子はメールをしていた。

彼女にはきっと決まった降りる駅があると思う。いつものようにサンタにも期待せずに寝て明日を迎えるんだろう。

冷たい風が薄いカーディガンの隙間から流れ込んでくる。肌に滑って「さむー」って言いたくなる。

知らない駅のベンチに座って、チキンを食べた。夕方なのにもう真っ暗。寒い。

ただひたすら昨日と今日の話をしていた。彼は全然嫌そうじゃなくていつもこんな感じなんだよね、って当たり前のように。

ただのカレカノがイブに過ごしてるなんて思えない。見えるけどね。

朝になったらイルミネーションの明かりは消えて、静かな風が冷たく優しく滑ると思う。その前にたくさん話したい。たくさん買ったお酒を少しずつ飲みながら、今日のことを話していた。


2018年12月24日

堀愛子

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