person 54  作・橋谷一滴

手を振っている

別れ際

もうすぐ改札を隔ててどんどん

距離が広がっていくのだろう

あー

次に会えるのはいつだろうか

あ、まって彼女が泣いた

うわ、めっちゃ泣くじゃん

悲しいー。

あ、キスした

それはやめてほしい。

ここ駅だから家じゃないから

ほら、わたしみたいに

あえて見てる人ぐらいしか

面白くないから

かれこれあのカップルを見初めて

はや1時間

まだ彼らは帰らない。

見ているわたしもわたしだが

さすがに粘りすぎじゃないのか

定期的にやってくる人混みを掻き分けるのももう慣れたのか

慣れたらもう終わりじゃないのか

もしかしたら帰るつもりがないのかもしれない

にしても

キスが長い

もう家行ったらいいんじゃないの

キス長くない?

え、ほんとに

長くない?

ずいぶん前に買った缶コーヒーが

もう冷えてしまった。

なんて

僕は今駅前で泣きながらキスしているカップルと

それを缶コーヒー飲みながら見ている女の人を

両方見ている。


2019年1月18日

橋谷一滴

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