person 55  作・堀愛子

このジャケット、意外に薄かったりしてる。

三嶋。46歳。男。

コンビニで買った缶ビールとお菓子と

ポケットティッシュと漫画にビニル袋の持ち手が限界を感じているのか、指食い込んで痛い。

今日は一段と寒い。

薄いジャケットの隙間から入り込んでくる冷たい風に、「はい、わかった、わかった」と言いたくなる。

京子姉ちゃんからはがきがきた。

少し遅めの年賀状。

どんどん通り過ぎる知らない街を横目に

早く家に帰って、漫画が読みたい

なんて考えながら。

少し前までは、この電車に揺られる時間も

好きだったけれど、今はもうそんなことは思わない。なんなら、ここで漫画を広げてしまいたい。

それはできないんだけれど。

京子姉ちゃんが自分と同じ年齢になったように感じている。僕が大人になったのか、

それともあっちの年齢がストップしたのか。

ニット帽を深くかぶるのはいつのまにか流行りじゃなくなっていて、でも寒いから深めにかぶる。僕流ということにしとく。

隣の席、高校生の彼らが

背もたれで遊ぶ。

ギシギシ鳴ってる。

もし壊れたら知らねえぞ、とか思いながら

僕は足を組んでみた。

きっとどっかで、

僕を懐かしく思う誰かがいて、

僕はいつまでも彼らが懐かしいんだろう。

いつか、僕も、彼らも、

親父ギャグが似合ったりするのかな。

この薄いジャケットが似合わないのと

同じように

新聞紙が似合ったりするのかな。


2019年1月21日

堀愛子

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