person 57  作・堀愛子

多分この人今、私に飽きてる。

なんでそんな私の口元、気になってんの。

なんか付いてるのか。いや付いてない。

めっちゃ見るね。


16歳。女。


ドーナッツの話をしてる。

ガタンゴトン揺れる

セーラー服のリボンを緩ませながら

適当に相槌うつ未央。

今日の朝、お母さんがスーパーで買ってきた半額のドーナッツ食べてきた話。

どうでもいいよ正直。

正直どうでもいいけど、

これくらいの会話するのが一番いいじゃん。

友達。

つまらないくらいがちょうどいい。

半額のドーナッツくらいパサパサな会話の内容でも、心地いいからそれでいい。

面白い話とか、ひねり出すだけで疲れる。

隣高の男子が電車に乗り込んでくる。

未央はそっちに目をそらす。


マフラーの中で小さくつぶやく。

ツイッター。

インスタ。

期末テスト。

雪。

ニット。

こたつ。

枕。

妹。

通知みたいに、タイムラインみたいに、

ぽこぽこと色んなことが頭に流れてきて、

消えていった。

夜のうち、明日天気になあれ、

そんなこと思ったこともない。

そんなこと考えたことない。


多分この後、なんか起こる。

いや起こらないかもしれない。

どっちでもいいけど、とりあえず、

今日は電車に揺られて帰るだけ。

未央は携帯に目をそらす。

また明日会えるね。


2019年1月28日

堀愛子

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