person 60  作・堀愛子

家の庭の木に、赤い実がなった。

乾燥肌と一緒に

頭の奥にこびりついている。

22歳。季節と一緒に溶けていくのはいつも、枯れた花とかぱきぱきの葉っぱ。

左右されるのは、言われてもないのに変わる季節ぐらいでいい。

寒い朝にも、薄いシーツが肌をなぞっていく感覚が好き。

朝になったら、起きることぐらい、

生まれる前から知っていたはず。

ベットから起き上がって

テレビの音がするリビングに向かう。

当たり前と言えば当たり前のように、

彼女は猫を抱いてアイスクリームを食べていた。

なんでアイスクリーム。

それは大人になっても知らなかった。

彼女は寝起きの僕に

「今日は映画館に行きたい」だけ言った。

たぶんそれは観たい映画があるわけじゃないなと、僕はすぐに分かった。

でも必ず実行している。今日もたぶん。

2年もいるのに、未だに僕は彼女のことがよく分からない。分かろうとしても、分からない。分からない方が良いとも思っているけど、

分からないことが少し悔しい。

庭に出る。

赤い実がなっている。

季節ぐらいで良い。

僕は彼女の赤い口紅だけが、

まだ未だに分からない。

僕の乾燥肌のために買った化粧水が洗面台の棚に並んでいく。試しても試しても治らない。

僕の身体はかっこ悪い。

彼女の赤い口紅ぐらい、かっこ悪い。


2019年2月18日

堀愛子

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