雨 case01 作・橋谷一滴
乗車率120パーセント
満員電車。
外には雨が降っていて
電車に乗ったその瞬間に
雑多な傘たちが見事に私のスカートの裾と床をびしゃびしゃにした。
隣に私の半分くらいの小学生が乗っている。
だから彼女は見事に全身びしゃびしゃである。
120パーセントの体温が充満して車内が生ぬるい。
しかも時折開くドアから
心臓を刺したかと思うほどの冷たい空気が入ってくる。
どっちもどっちだ。
駅に着いたら私は電車を降りるのだなと思うと
びしゃびしゃになったスカートが外の冷気にさらされ
今よりもっと心臓ぐさぐさである。
でもこれって日常なのだ。
ただ今日雨が降ってるってだけであって
そう言ってしまえばこれを嫌なことに換算するのも如何なものか
と思ってしまう。
じゃあ私これからこれ基準なのか。
この状態が日常なのだとしたら
私の幸せって案外簡単だ。
と、思った矢先
なんか音なってないか。
いや、誰か喋ってるのか。大声で。
私がイヤホンを外すと
私の隣の全身びしゃびしゃ小学生が大声で歌っている。
え、なんだ
なぜこの状況で歌うんだ。
なんだかすごく今までの話が小言に思えてきた。
電車で歌うなんてそんなことする人絶対いないが
全く嫌な気分じゃない
だってこの電車の中一番被害を被っているのは彼女じゃないか。
その本人が機嫌よくうたっているのだ。
してやられた。
またドアが開く。
彼女は心臓を刺す冷気の中に私より先に消えていった。
スキップで。
2019年4月29日
橋谷一滴
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