雨 case 05  作・堀愛子

悲劇的だ、とても。そんな大袈裟に演出してくれなくてもいいのに。

迷惑だよ、制服の肩の部分だけ異常に濡れてんじゃん。

ムカつく、

彼女がいるらしい。

知らなかった、とても虚しい。

そうなのよ、授業中、

ずっとバレないように眺めてたのに。

ふたりで屋上に登って、

話したことだってあるのに、

担任の悪口とかさ。

遠足でアンパンマンのチョコくれたのに。

朝からニュースで言ってたよ、

雨が降り出すことなんて

知ってたのに。

返信に夢中で

忘れてきてしまったなんて

今考えたら笑えてきて仕方ない。

だから大袈裟なんだよ、

あれか、

ドラマのクライマックス、

何か起きる予感か、

それならもっと雷とか、

落としちゃってもいいのに。

いよいよ笑えないでしょ。

そしてもっともっとかっこいい人に

私は助けられる、そこで生まれる恋心。

とかいうのを想像しながら、

水たまりに足を突っ込んでしまった。

進出してくる雨、いや、水が、

指の隙間に入り込んでくる。

鬱陶しい。

ただの水のくせに、

降るだけで雨なんて可愛い名前つけてもらってさ。なんだよお前さん、

ドラマチックな演出がしたいだけだろ。

ぐちゃぐちゃになった靴を見てたら

なんだか涙がこぼれてきた。

家に着いたら、濡れた私にお母さんが

「傘は?忘れていったの?ばかじゃないの」

って言う、絶対。確実。

もう99パーセント絶対。

知らないよ、彼女がいたとか。

ムカつくなぁ、

なんで返信に夢中で傘忘れるかな。

雨、嫌いになるじゃんか。


2019年5月3日

堀愛子

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