ペット case 01 作・橋谷一滴
えびを飼っている
と言われた。
えび。
彼の家に行って水槽を覗くと
それはほんとに透明な
小さい
ぬまえびだった。
私は伊勢海老とかを想像していたのか
と小さいえびを見て初めて気がついた。
10匹のえび達は彼が川で釣ってきたらしく
釣ったという響きがまた
その小ささを助長していた。
ところで、彼は小説を最後まで読むことができない。
これは随分前に気づいた話で、だから彼の本棚には最後の数ページの間に裏表紙が挟まった本達が並んでいた訳だが。
なぜ最後まで読まないのかと彼に問うと
「寂しいんだよ」
と独り言のような答えが返ってきてしまった。
彼の中には本を読み終わるということが誰かとの別れのようなものを内包しているのかとその当時私は思った。
彼は別れに滅法弱いのだと。
だから彼にペットはあり得ないんじゃないか
だって死ぬもの
えびなんて相当早いんじゃないだろうか
なんでえび飼ったの
「かわいいやろ」
と彼は言った。
なんだか寂しくなってしまった。
彼の本棚は少しだけ変わっていた。
2019年5月27日
橋谷一滴
0コメント