person 79  作・草場あい子

電車。男。大学生。

手の逆剥けが痛い。

今日も朝からバイトだ。

土曜日なのに。

微妙に混んだ電車に乗り込んでバイトへ向かう。

ゆっくりと景色が流れ出す。

バイト、行かなきゃだめかな。

逆剥け痛いし。

めんどくさい。

逆剥け理由に休めないかな。

それはさすがに無理か。

それか、このまま電車が止まらないとか。

それも、ないか。

毎回考える。

なぜか分からないけど。

どうにかしたら休めないかなーって。

でも、結局そんなことありえない。

もしなったら、困るのは僕自身だし。

別にバイトが嫌いなわけではない。

むしろ好きなほうだ。

友達いるし、店長優しいし、楽しいし。

でも考える。意味もなく。

考えるというか、思ってしまう。

電車が止まる。

僕が降りる駅。

予定時刻に1分も遅れることなく、

ホームドアと電車のドアがぴったりと重なって。

止まった。

ドアが開けば僕は足を踏み出さなければならない。

アナウンスが流れると同時にドアが開く。

僕は何もためらわず、足を踏み出す。

逆剥けのことなんかもう頭から消えている。

さっきまで思っていたことも全て。


2019年06月19日

草場あい子

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