2019.05.17 13:11自転車 case 05 作・堀愛子僕は乗れない。小学四年生の夏。ぎこちないペダルの踏み方で習字教室のある坂を下っている時だった。思ったよりも急だった坂に緊張しながらもブレーキをかけずに風に任せて走っていた。不覚にも目を逸らしてしまったその隙に僕は目の前の石ころに気づかずに自転車ごと宙を舞った。僕の人生の三分の一くらいを変えてしまった出来事だと思う。僕は自転車に乗れなくなった。大怪我をしたのは言うまでもないが、怪我が治ったその後も、...
2019.05.16 13:05自転車 case 04 作・渡邉大疲れた。昼はもう暑くなってきたけど、日が暮れるとまだ全然寒い。勉強からの野球の後に帰りが自転車って重労働過ぎるでしょ。まあ野球は好きだから部活に入ったんだけど。あー、そうだ。これからもっと暑くなってくるからさらにしんどいじゃん。夏はマジで地獄だからな。ユニフォーム暑すぎなんだよ。しかも汗でベタベタするし。こうゆう時に彼女とかいたら、タオルとか来れたりするんかな。いやまあ居ないんだけど。全然居ないん...
2019.05.15 14:37自転車 case 03 作・草場あい子風鈴の音が聞こえる。夏だ。扇風機の風が風鈴を鳴らす。私は縁側で横になる。ちょうど屋根が影になって、床がひんやり気持ちがいい。蝉の声が聞こえてくる。ちょっとうるさい。でも、なんだか心地がいい。風鈴の音と、扇風機の回る音も、蝉の声も。平和な音。目を閉じたらもう開けたくない。どんどん音が遠のいていく。寝てしまいそうだ。嫌いだった。車の音も、人が歩く足音も、携帯の音も、自転車のベルの音も。窮屈な感じがして...
2019.05.14 14:45自転車 case 02 作・木庭美生指を入れようと思った。昔お兄ちゃんの自転車の後輪に指を入れようとしたことがあった。自転車を止める時に後輪が地面につかないタイプのやつ。後輪だけ回ってて、キラキラしててさわりたくなったから。指を伸ばそうとしたところで気づいたお兄ちゃんに慌てて止められた。びっくりするほど怒られた。記憶はあるけどいつだったかはあんまり覚えてない。それくらい前の話。子供の頃は何にでも手を伸ばせて、興味があればすぐに行動に...
2019.05.13 02:00自転車 case01 作・橋谷一滴「この自転車さ、すぐタイヤの空気抜けるから」年末に彼は無人島へと向かった。最後に会ったのは12月の26日。彼は持ち物の中で一番値段の高い自転車に片手間に乗りながら「知ってた?最近の子供のままごとって電子マネー使うんだよ。」とほんとか嘘か分からない話を真面目な顔で話した後おんなじテンションで無人島へ行く話をした。私はまたほんとか嘘か分からない気分になった。そしてわたしが冗談交じりに無人島に持っていく...