たばこ case05   作・堀愛子

AM 08:52 アラームの音で目が覚める。あたしはドキドキしている。

中学の時、そばかすの村上はあたしのことを好きだったらしい。

昨日の夜、中学時代の同窓会に出席した。

成人式を終えて大人になったあたしたちは、お酒も飲めるしたばこも吸える。同窓会なんて憧れていたけれど、いざその時になればこういうものなのだと思う。

変わっていくみんなの生活や性格。

きっとまた会えたら同じように笑っているのだろう。思ったより感動的でも無いけど、なんとなく奇跡な気がする。

村上。

そばかすの村上。端から2番目に肩を縮めて座っている。お酒なんて一滴も飲んでない。

気になっていた。ずっと。

なんとなく。村上はあたしのことが好きだったらしい。それは本人に言われたわけでもなく、誰かから聞いたわけでもない。

でもなくとなく。村上はあたしのことが好きだったらしい。

騒がしい空間から逃げ出すように村上は居酒屋を手ぶらで出た。あたし以外だれも気付かなかった。あたしも友達にトイレに行くと言って密かに後を追った。

居酒屋の路地の端。暗い街灯でほんのり照らされたチェックのシャツ。そばかすの村上は慣れた手つきで火をつける。どこを見つめてるのかは分からなかった。ただたばこの煙を吐いていた。電柱の影に隠れてあたしは村上を見た。村上はお酒を一滴も飲まなかった。

村上を思い出して布団に潜る。

クラスでも目立たなかった村上が卒業式、あたしだけにアルバムとペンを差し出して「書いてください」と黒目を泳がせながら言ってきたのを今も思い出す。

村上はあたしのことがたぶん好きだったと思う。

まだドキドキしている。

どうも夢の中で、あたしは村上に抱きしめられていたらしい。鼻の先にはたばこの匂いが残っているような気がする。


2018年11月2日

堀愛子

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