横断歩道 case 01 作・橋谷一滴
図書委員だった。
小学校の時、漫画が好きで。好きというか、なんかもうずっと読んでたくらいに好きっていうかちょっと伝わりづらいけど。
図書委員で同じカウンター当番だったみっちゃんていう男の子がいて
カウンター当番の週に1回、席に着くとみっちゃんはすぐに僕に話しかけてくる。
僕はその頃漫画の次にみっちゃんのことが好きだった。
僕の拙い漫画の話と、
僕が描いた拙い漫画を
みっちゃんは大事にしてくれて、
ある日、僕が見せた漫画を読んで
これいいね。ずっと描いていればいいよ。漫画。何かに繋がるかもしれんし。
って言ったもんだから
僕はその日早めに布団に入って、
それからおかーさんとかおにーちゃんとかに見つからないようにちょっと泣いて、
僕は今も漫画を描いている
みっちゃんの言葉だけを頼りに
という僕の半生を今思い出していた。
横断歩道の向こう側に何人か立っていて
その右から3人目に立っている人の検討が僕にはついていた。
みっちゃんは中学受験したから、小学校の卒業式以来会っていない。
同窓会に行けるほどの話もなく、
ずっと漫画が好きなだけだったから。
会ってもどうしようかと思っている。
僕は小5から何も変わっていないのかもしれない。
信号が変わる。
すれ違って去ってゆくみっちゃんに僕は話しかけることができなかった。
彼からは甘い洗剤の匂いがして。
これいいね。ずっと描いていればいいよ。漫画。何かに繋がるかもしれんし。
ってずっと頭でリピートしている。
僕は何に繋がったんだろうか。
君も覚えていないような言葉に勝手に励まされて
なんとなく振り返るとなぜか君もこっちを向いていて、
やっぱり口を開くのは君が先だった。僕はまた勝手に君に励まされて生きて行く気がしている。
今まで描いてきた漫画が全部君に繋がったような気がして
少し悔しいけど
それならそれで、別によかった。
2018年11月12日
橋谷一滴
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