スニーカー case 03  作・堀愛子

しまった、と思った。

昨日雨が降ったせいで濡れたままの新しいスニーカーを持ったまま、玄関に立ち尽くしている私。

夜のうちに新聞紙を詰めとけばこんなことにはならなかったのに、とか夜のうのうとプリンを食べていた私を恨んでいた。

そんな暇はない、もう8:23だ、早くしろ、遅刻だ。

急いで靴箱を漁るが、数少ない私の靴たちがボトボト落ちてきて、雑に押し込む。

一番適当であろうスニーカーを出して履く。

昔中学の頃履きまくってたスニーカーでもう見た目はだいぶ廃れていた。

足を突っ込んで家を出る。

いつもの街。高校までの道。

履き古したスニーカーが足の形にどうしても合わなくて、歩くたびに脱げそうになる。


このスニーカーで、

運動会の練習を毎日したっけな。

このスニーカーで、

初めての彼氏と花火大会に行った。

このスニーカーで、

高校入試を受けた。


すかすかのスニーカーの隙間から、

どうしようもない思い出たちが溢れ出してきて

強く足を前に出す。

過去と明日の狭間で揺れながら、

歩いて行く。


2018年1月11日

堀愛子

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