person 53  作・草場あい子

20代。男。電車。昼。

後ろからの陽差しが、

暖かくて、

乾燥機から出したばかりのタオルケットに、包まれているみたいに

心地がいい。

電車の振動も、

静かにゆっくり聞こえてくる電車の音も、

誰かの話し声も、

スマホをたたく音も、全て。

まぶたを閉じたら眠ってしまいそうなくらいに。

幸せな空間。

ずっとこのまま乗っていたいと思う。

ドアが開く度に入る冷たい風が

邪魔をしてこなければ。

それは僕の幸せな空間を一瞬にして壊す。

遠慮なく。

僕を包んでいたタオルケットを消して、

外の音を、

色んな足音を、

大きくして入ってくる。

その足音は早くて、

僕を置いていく。

ドアが閉まると、

僕の幸せな空間はまた出来る。

ずっとこのまま乗っていたいと思うような。

でも、気づいてしまった。

次、ドアが開くと、

僕はこの幸せな空間を出なければ行けないことを。

ドアが開く。

冷たい風が入ってくる。

色んな足音が聞こえだす。

僕はその中に自分の足音も混ぜる。

置いていかれないように。

歩いていく。


2019年1月17日

草場あい子

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