ワンピース case 04 作・堀愛子
夏、
背の小さいワンピース姿の女性を見ると
今でも
彼女のことを思い出す。
いやでも連想させてしまう、彼女はたぶん
僕の中に10年経った今でも、ふとしたところで
現れて、しがみついて、取れない。
授業中、
ノートも取らずに寝てばっかりの男の子と
はしゃぐ彼女に嫉妬していた。
むしゃくしゃする気持ちを
夏さの暑さのせいにして。
視力の悪い彼女が目を細めて黒板を見るたびに
僕は必死でノートをとった。
席も離れてる、
後で見せるわけでもない。
だけれど僕は細めた先にある
正しい文字で
嫉妬の奥の劣等感を
救うために必死だった。
中三の夏休み、
彼女を遊びに誘った。
最後の日に、
突然思い立った。
自分でも不思議なくらいの行動力だった。
僕の知らない夏休みが、終わってしまう。
自転車に炭酸水。
ペダルから滑り落ちそうなくらいの勢いで待ち合わせ場所まで走る。
ワンピースを一枚さらりと着た彼女は
仁王立ちをして、僕のことを待っていた。
彼女が僕を待っている。
それだけだった。
でも
その姿と、
あの最高で恥ずかしい冷たい果実みたいな夏休みがこんな今も離れない。
きっとまた僕は、
背の小さい、ワンピースが似合う、仁王立ちの、そんな女性を好きになるんだろうなとひとりで思った。
また夏が終わってしまう。
2019年1月18日
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