person 61  作・木庭美生

今川茜。29歳。女。

あ、いちごみるく。

そこそこ人の乗ったエレベーターの中ににおいが充満している。

いちごみるくの甘ったるいにおい。

こっそり周りの人を見てみると女子高生らしき女の子がピンク色の液体の入ったペットボトルを持っていた。

においに対してかわからないけれどスーツ姿の男の人が嫌そうな顔をしているのも見つけてしまった。

疲れた体に甘ったるいにおいがちょっとくるのはわからなくもない。

とりあえずふた閉めな。

心の中でつぶやいても伝わるわけもないのでそのまま少し下を向く。

エレベーター動く時特有の感覚を体で感じながら目的の階数につくのを待つ。

扉が開き、外へ出る。

空気が入れかわる。エレベーターの中の空気がどうかはもうわからないけれど私の吸い込む空気が変わった。あの甘ったるいにおいなんて全然しない。

いちごみるく。もう10年以上飲んでない。そもそも飲もうと思わなかったからだけど。においってすごいな。においを思い出し、昔の記憶を探る。

どんな味だったか、どんな時に飲んでたっけ。なんとなく思い出すけどさすがに味までは思い出せない。甘ったるかったような気がする。

そういえば、近くのコンビニでいちごみるくを見たことがあるのを思い出した。

スーツの彼はまだ苦しんでるのだろうか、とりあえず私はさっきと違うにおいを感じながらコンビニに行こう。


2019年4月23日

木庭美生

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