自転車 case 03  作・草場あい子

風鈴の音が聞こえる。

夏だ。

扇風機の風が風鈴を鳴らす。

私は縁側で横になる。

ちょうど屋根が影になって、床がひんやり気持ちがいい。

蝉の声が聞こえてくる。

ちょっとうるさい。

でも、なんだか心地がいい。

風鈴の音と、扇風機の回る音も、蝉の声も。

平和な音。

目を閉じたらもう開けたくない。

どんどん音が遠のいていく。

寝てしまいそうだ。

嫌いだった。

車の音も、人が歩く足音も、携帯の音も、自転車のベルの音も。

窮屈な感じがして、

自分のスペースなんてないみたいな。

だから外には出ない。

休みの日は家でゆっくりする。

自分だけのスペース。

ここで聞くと、車の音も、足音も、携帯の音も、自転車の音も平和な音に聞こえてくる。風鈴たちと一緒に。

外で聞くときと全く違う。

不思議な感覚。

遠くからチリンチリンッてベルが鳴る。自転車のベル。

心地がいい。やっぱり不思議。


2019年5月15日

草場あい子

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