person 74  作・堀愛子

17:22

日差しが入り込む車両

ひたすら流れる同じような景色と

床にできる影

この時間に電車に乗ることがないから知らなかったけれど、帰宅ラッシュとかいうのだと思われる

手にスマホの影ができ

画面の明るさを下げても、自動で明るさを調節してくれているらしく何度も日光が当たるたびに上がってくる

ドアが開く

外側の雑音が一気に入り込む

乗り込んでくる数人の人達

席を立ち上がって降りていく人達

知らない街で

知らない人たちが行き交う

隣の席に座る知らない人と

肩同士がぶつかり合う、

とは言え気にはしないけれど

隣の男子高校生

制服のしわに影ができる

ほんのすこしイヤホンから音が漏れていて

ズボンの裾を折り曲げている

どこかで見たことがあるスニーカー

自動調整のせいで上がってくるスマホの画面の明るさを下げながら気づいた

朝の人だ

朝の電車が毎日一緒の

同じ車両の男の子だ

いつも友達となぜか電車の中で

あやとりしてるから覚えている

彼のスマホが光る

低電力モードの表示が少しおかしく思えて、

思わず頬が緩む

知らない誰かと

毎日一緒に同じ空間で過ごしているなんて

考えると不思議だ

音漏れしている音は

私の知らない低音が響く音楽だった

07:21

日差しが入り込む車両

ひたすら流れる同じような景色と

朝の空気

昨日の彼は今日も

あやとりを続けている


2019年5月24日

堀愛子

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