person 76 作・草場あい子
カフェ。男。夕方。
僕。17歳。高校生。
最近新しい友達が出来た。
同い歳の女の子。
でも、1度も会ったことはない。
SNSで知りあったから。
その子とはよく話す。
メッセージを送りあって。
でも、特に深い話はしない。
ただ当たり障りのない会話が続く。
それで知ったその子のこと。
女子校に通っているということ。
好きなことは映画を観るということ。
好きな食べ物はパスタだということ。
そして、一人称は「私」ということ。
俺。25歳。会社員。
俺には同い歳の同僚がいる。
名前は山口。男。
その山口から相談を受けた。
たった今。
内容は、出来心でSNSでなりすましをしてしまったら、
一人称が「僕」の高校生を騙してしまった。
ということ。
それで、俺は、普通に、
本当のことを言って謝るしかない。
と言った。
山口は今、申し訳なさそうに、
一人称が「僕」の高校生にメッセージを送っている。
俺の隣で。
でも、山口は知らないだろう。
そのメッセージが俺の携帯に届くということを。
俺の携帯が鳴る。
メッセージが来る。
一人称が「私」のあの子から。
いや、17歳でも、女の子でも、
一人称が「私」でもない、山口から。
一人称が、「私」から「僕」に変わったメッセージが。
そして、その子はそのメッセージを送ったあと、SNSから消えた。
「僕」もそろそろ消えなければならない。
もう目的は果たしたから。
山口のなりすましを辞めさせる。
ということ。
人を騙すのは思った以上に簡単だったな。
2019年6月5日 草場あい子
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