person 77 作・堀愛子
遅延。
僕は、びっくりするほど落ち着いている。
慣れというものはこわい。
人間は変化を嫌うらしい。
だからなのかこんな朝は騒がしい。
忙しく動く人混みの中
僕はイヤホンを片耳だけ外して
駅内放送を聞いた後、
難なくホームに向かった。
ここで足を止めたところでどこにいるべきか。
いつものホームで待てば、
遅延でも電車はやってくる。
駅には通話している人が多い
たぶん会社に連絡しているのだろう。
僕はそれをしなくていいからなのか、
どこか安心している。
授業に少し遅れて行くことになるけれど、
2、3回はやったから大丈夫。
慣れというものはこわい。
また遅延か、
と思うにはまだそんなに乗り慣れた気持ちにはなれないけれど
僕はそういう人間だと思う。
例えば、一つ車両を変えるだけで、
昔の会いたくない知り合いに会うだとか、
予想はできないこともないのに、
いざそうなればどうしたらいいのか分からない。
知らないふりをした。
とりあえず、顔の向きを変えて
気付かれないようにした。
人間は変化を嫌うらしい。
僕もそうだと思う。
明日からはまたいつもと同じ車両に
この先のことなんか考えずに
乗るんだろう。
2019年6月7日
堀愛子
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