郵便局員 case 02 作・木庭美生
僕はよく指を切る。
紙で。
昔からよく紙で指を切る。
わざとじゃないんだけどよく切れてる。
よく紙で指を切ってよく指がピリピリと痛かった。
僕は中学3年生の時からなりたかった仕事に就いた。
郵便局員。手紙を分けたりしたいな、と思ったわけじゃなくて。
バイクに乗りたかっただけ。あの赤いバイク。目立つし、かっこいい。
高校を卒業したらすぐに就職しようかと思ってたけど大学を卒業してないとだめだったし、僕はバイクの免許を取ってなかったのでとりあえず大学に行った。
どうでもいいけど受験の時にも問題用紙で指を切った。
大学はバイトしながら普通に通って、貯めたお金で免許を取った。
大学を卒業して郵便局に就職できた。
最初からバイクに乗ることはできなかったけど、やっとバイクに乗れる。
やっぱり赤い。
実際に仕事が始まるとそんなにかっこよくない。
走ってると目立つけど郵便物を届ける建物が並んでると、ちょっとはや歩きで歩いた方が早いと思う距離をちょこっとだけバイクに乗る。バイクを置いていくわけにいかないから乗るけど、乗るけどあんまりかっこよくないよなと思う。
でも、ちょっと地味に見えたりしてかっこよくないとも思うけど、かっこいいだけじゃないんだってわかりはじめた。
郵便物を届けた時にお礼を言われた時とかすごくうれしい。こんなのはよくある話だしあんまり信じてなかったけど、こうゆう時って本当に嬉しいんだな。
中学3年生の僕はいい判断をしたな。
郵便局員は地味だけどかっこいい。地味だけど目立つ。
長く頑張ってよかったなって思える。いいね。
ん。なんか。指がピリピリする。あ、またか。
こんなところがちょっと向いてなかったのかもしれないとどうしても思ってしまう。
まあ、かっこいいからいいけどさ。
2018年12月4日
木庭美生
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