郵便局員 case 03  作・草場あい子

朝だ。起きないと。

顔洗って、着替えて、メイクして、朝ごはんを食べて、靴を履く。

よし。

玄関のドアノブを回す。

開かない。

あ。無理だ。会社辞めたい。

普通のOL。普通に大学受験して、普通に就職活動して、普通に生きてきた。普通に。

でも私は幸せじゃない。普通に生きているのに。

友達も。信頼できる人もいない。会社も楽しくない。私がいなくても皆困らない。何でこんな会社に行かなきゃいけないの。そう思ったらドアが開かない。開けられない。重くて、ずっしりとして、まるでこの部屋から出さないように。会社に必要ないって言われてるみたいに。閉じ込められる。

でもそのドアは重くなかった。

チャイムが鳴って開けたそのドアは重くなかった。

郵便配達の人。郵便物を私に渡すと去っていった。

開いたドア。…今なら行ける。ドアが閉まらないうちに。また開かなくならないうちに。外に。

私は今、いつもは何も考えないで歩く道をあのドアのこと考えながら歩く。あの重くて開けられなかったドアを開けた郵便局員さんのことを。

私は今日も会社へ向かう。


2018年12月5日

草場あい子

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