レンタルビデオ case 01  作・橋谷一滴

父は、鴨の浮かぶ湖の端で

「鴨南蛮蕎麦食べたい」

と言った。

仕事の関係で父はあまり家に居ないので

むしろいるとレア感が出ている。

だからなのか月に1回くらいの頻度で再会すると

変な人だなあと思う。

新鮮なのだ。

そもそも40代後半のおじさんが息子に仕事を聞かれて

「冒険してるんだよ。世界中をね。」

と真面目に答えているのを見ると

なんだか悩みとか色々がすごくバカバカしく思えてくる。

しかし父は決して冗談を言っている訳ではない。

本当に冒険家なのだ。

僕は、父と一緒の日はいつにも増してだらしがない。

それは父がだらしがないからにほかならないからなのだが

昨日も僕と父は

見れるはずもない本数のビデオを借りて、

食べられるはずもない量のポテトチップスを買って

にも関わらず家にあったカップラーメンを食べて

借りたビデオは1本目の45分あたりで二人揃って寝た。

確実に期待を裏切ることなくだらしのない父が本当は1年のほとんどを冒険に費やしていると思うとなんだかおかしいし

その合間で僕は一緒にだらしなくなっているのだなあと思うと

なんだか余計にレアである。

日本の湖の端でデリカシーのないことを言っている父はまたどこかへ行ってしまう。

その前に、ビデオ返して鴨南蛮蕎麦食べようと思う。


2018年12月17日

橋谷一滴

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