レンタルビデオ case 05  作・堀愛子

外はしばらく雨が降っていた。

湿った空気が似合わないLEDに照らされた店内はあちらこちらで同じ映画の宣伝映像がリピートされている。

窮屈だと思って帰ってきた。昨日、実家に。

荷物もろくに持たずに新幹線に乗った。

肩まで伸びた茶色の髪の毛は、雨に濡れて三年前にかけたパーマが残っていたことを証明する。深い青色を塗った爪に雨がはじいてキラキラ光る。

実家の近くのレンタルビデオ屋は、中学の時の私の「いきつけ」だった。映画が好きだったと言えばそうなのかもしれないけど、映画が好きです!なんて感じに胸を張ってるほどはなかった。ただずっと映画を観ていたと思う。観ては返してまた借りて。

通う、ということに意味があったのかもしれないけど。特に何にもなかったのだ、本当に。

いや、違うと思う。

少し真似していた。真似したかったんだと思う。あの人のこと。

たばこの匂いと缶のブラックコーヒー。

天然パーマの黒髪で襟足とヒゲが伸びてて、いつもヨレヨレのシャツを着ていた。彼は季節問わず薄着だった。

「かなちゃん、逃げるということは悪いことじゃないんだよ。」

小学生の時不登校になった私にそう言ってくれた。そう言ってアンパンマンのチョコレートをくれた。

毎週のようにレンタルビデオ屋を、黒い袋をぶら下げて出入りする姿は、とてもかっこよくて間違いなく憧れだった。

中学生になって真似を始めてからは彼の姿を見ることはなくなった。いつのまにか消えた。

どこに行ったか今どうしているか。

気になるけど、なぜか、どこか、安心している。

元気にしてるんじゃないかな。

今も、きっと、薄着で、季節なんて知らないまま笑っていると思う。

昔していたように真似をする。

なんとなく選んだ映画を黒い袋に入れてぶら下げて帰る。あと7日は実家にいよう。

この映画を返してから、その朝にまた実家を出よう。

水たまりを飛び越えながら小雨の中を歩いた。


2018年12月21日

堀愛子

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