貯金箱 case02 作・草場あい子

靴箱の上にひとつ、貯金箱がある。

金色のアルミでできたあの、100万円貯めるやつ。

仕事から帰ってきたある日、鍵を置くその横に、その貯金箱は置かれていた。

それは、君が買ってきた貯金箱。

君はおかえりの言葉と一緒に、

それ、すごいでしょ。100万円貯まるんだよ。

と、ドヤ顔で言った。

500円玉できたら貯金箱していくんだ。って。

それから君は買い物をする度にお釣りが500円になるようにした 。

意識的に。

だけど、それは約1週間の出来事だった。

気がつくと、君が買い物をしても、もうお釣りが500円になることはなくなった。

君は貯金箱の存在を忘れた。

だけど、僕の財布には今6枚、500円玉が入っている。

買い物をする度にお釣りが500円になるようになったから。無意識的に。

だから、聞いた。

あの貯金箱、もう使わないの?

君は、

ん?貯金箱?なんだっけ?

君はやっぱり貯金箱の存在を忘れていた。

だから今、君が買ってきた貯金箱は、僕の貯金箱になっている。

500円玉ができる度に貯金する。

僕の日課。

きっと、

君が始めた家計簿つけるのだって、僕の日課になるんだろうな。

そんなこと思いながら僕はレシートの写真を撮る。

無意識的に。


2019月6月12日

草場あい子

0コメント

  • 1000 / 1000