2019.05.31 14:55ペット case03 作・堀愛子またあの人のことを考えていた。マルのことを触りながら、あの人のことを考えていた。まただ懐かしいねこのぬいぐるみ今日はずっと口にくわえたままだね。最近の私はずっとあの人のことを考えている。マルはその隣でじっとしている。マルと出会ったのは小学生の頃で、もう8年は一緒にいる。昔はいじめてごめんね。君はとっても可愛い。今はわかる。大事にしてるという行為が気持ち悪くて、マルのことを好きになれなかった時があっ...
2019.05.29 13:00ペット case03 作・草場あい子大学生になった。僕はペットショップでアルバイトをしている。今年の春から。だからまだ2ヶ月弱。僕はたぶん動物アレルギーだ。アルバイトを始めてから、よくくしゃみが出る。目がかゆい、あと、涙が出る。 しかも、バイト先に来る度にどんどん悪化していく。僕は犬が好きだ。猫も。うさぎも。ハムスターも。フサフサして、かわいい。 だから僕は小さい頃からペットを飼うことが夢だった。でもうちでは飼わせてもらえなかった。...
2019.05.28 13:00ペット case02 作・木庭美生いつも通り送りだす。ありがとうございました。と言って送りだす。誰かのペットになる子たち。自信を持って言えるのは、わたしが1番あの子をかわいがってて知っているということ。職場に出てきて一番最初に掃除をする。ご飯を食べるのだから当然排泄はする。その掃除。綺麗にしたらそのあとご飯。子犬や子猫のご飯をふやかしたりもする。いつも通りの仕事。健康管理をしたり、たまにお散歩に行ったり、お客様の相談にのってアドバ...
2019.05.27 13:00ペット case 01 作・橋谷一滴えびを飼っていると言われた。えび。彼の家に行って水槽を覗くとそれはほんとに透明な小さいぬまえびだった。私は伊勢海老とかを想像していたのかと小さいえびを見て初めて気がついた。10匹のえび達は彼が川で釣ってきたらしく釣ったという響きがまたその小ささを助長していた。ところで、彼は小説を最後まで読むことができない。これは随分前に気づいた話で、だから彼の本棚には最後の数ページの間に裏表紙が挟まった本達が並ん...
2019.05.24 07:00person 74 作・堀愛子17:22日差しが入り込む車両ひたすら流れる同じような景色と床にできる影この時間に電車に乗ることがないから知らなかったけれど、帰宅ラッシュとかいうのだと思われる手にスマホの影ができ画面の明るさを下げても、自動で明るさを調節してくれているらしく何度も日光が当たるたびに上がってくるドアが開く外側の雑音が一気に入り込む乗り込んでくる数人の人達席を立ち上がって降りていく人達知らない街で知らない人たちが行き...
2019.05.23 13:00person 73 作・渡邉大・見かけた人本屋の袋を持った男性・見かけた場所線路沿いの道路・時間帯21時20分頃________________________○名前飯野 史敏○年齢25歳○趣味読書_________________________色々買っちゃった。まあ、今日頑張ったから良しってことで。にしても今日はきつかったなぁ。入荷した本、色々あったし。筋力あれば、あの凄まじい肉体労働でも平気なのかな。あ、でも平田さん結構...
2019.05.22 10:00person 72 作・草場あい子高校生。駅のホーム。もうすぐ電車が来る。なのに僕はイヤホンを忘れた。いつも肌身離さず、スマホとセットで持っているのに。イヤホンを忘れた。今日は急いでいた。不意打ちの遅延で。いつもより早い電車に乗るために慌てて家を出た。スマホは持った。確実に。今僕の手の中にある。だけどイヤホンがない。音楽を聞けない。電車がホームに着く。案の定満員だ。だからよりイヤホンがいる。なのにない。最悪だ。僕はいつもコンタクト...
2019.05.21 13:00person 71 作・木庭美生井上輝。30歳。男。家の風呂が壊れた。自動で湯を張る風呂が湯を張らなくなった。シャワーで済ませればいいだけだから頭から洗った。 めんどくさいし、シャンプーでそのまま全身洗いたくもなるけどそういうわけにもいかず普通にボディーソープで体を洗った。横を見ると空の浴槽。全くお湯の張られていない浴槽がある。手に入らないとか、ものがないときほど欲しいと思ってしまう心は誰しもあると思う。うん。お湯につかりたい。...
2019.05.20 13:14person 70 作・橋谷一滴目が冴えた喉が渇いた布団から出たら寒くなるほど冬じゃなくなったでも布団を出るのは億劫で最近聴いてなかった曲をかけて目を瞑る日焼け止めの匂いが迫って来る教科書が手汗で歪む魔法瓶の中の音昨日とか今日とかすっ飛ばしていつかあったような誰も覚えてない記憶を辿ってしまっている目が冴えた喉が渇いたもうすぐ夏が来るここには歪んだ教科書もあの魔法瓶ももうない。水を飲もうと目を開けるとそこは変わらず真っ暗だった。
2019.05.17 13:11自転車 case 05 作・堀愛子僕は乗れない。小学四年生の夏。ぎこちないペダルの踏み方で習字教室のある坂を下っている時だった。思ったよりも急だった坂に緊張しながらもブレーキをかけずに風に任せて走っていた。不覚にも目を逸らしてしまったその隙に僕は目の前の石ころに気づかずに自転車ごと宙を舞った。僕の人生の三分の一くらいを変えてしまった出来事だと思う。僕は自転車に乗れなくなった。大怪我をしたのは言うまでもないが、怪我が治ったその後も、...
2019.05.16 13:05自転車 case 04 作・渡邉大疲れた。昼はもう暑くなってきたけど、日が暮れるとまだ全然寒い。勉強からの野球の後に帰りが自転車って重労働過ぎるでしょ。まあ野球は好きだから部活に入ったんだけど。あー、そうだ。これからもっと暑くなってくるからさらにしんどいじゃん。夏はマジで地獄だからな。ユニフォーム暑すぎなんだよ。しかも汗でベタベタするし。こうゆう時に彼女とかいたら、タオルとか来れたりするんかな。いやまあ居ないんだけど。全然居ないん...
2019.05.15 14:37自転車 case 03 作・草場あい子風鈴の音が聞こえる。夏だ。扇風機の風が風鈴を鳴らす。私は縁側で横になる。ちょうど屋根が影になって、床がひんやり気持ちがいい。蝉の声が聞こえてくる。ちょっとうるさい。でも、なんだか心地がいい。風鈴の音と、扇風機の回る音も、蝉の声も。平和な音。目を閉じたらもう開けたくない。どんどん音が遠のいていく。寝てしまいそうだ。嫌いだった。車の音も、人が歩く足音も、携帯の音も、自転車のベルの音も。窮屈な感じがして...