2018.12.28 14:5525mプール case 03 作・堀愛子「真冬にプールなんてまともじゃないね。」まともってそもそもなんだろ。彼女は真っ赤になった鼻をすすりながら、静かに笑っていた。僕たちは29歳になっていた。僕のトラウマのような彼女を、こうやって母校のプールに連れてきた僕も僕だ。どうかと思う。その日は初雪が降る日で、分かっていながら彼女の連絡先を開いた。「ご無沙汰してます。清水」それだけを送ったら、案の定、彼女から大量の文章が返ってきた。メールをするの...
2018.12.27 12:00person 47 作・草場あい子女。ヒール。白い息。ゴミ捨て場にクリスマスの飾りが袋にまとめて捨ててあった。あ。今年のクリスマスももう終わったんだ。そういえば、昨日だった。街中に流れていたクリスマスソングもサンタ姿ももういない。クリスマスに染まった街は元の日常に戻っている。早いな。特別な日と思っていたわけではない。けど。飾りも歌もその日を過ぎれば、ある意味がないと言われてるみたいで、何だか淋しい。でも、そういうものだ。バレンタイ...
2018.12.26 14:50person 46 作・木庭美生坂井真太郎。12歳。男。世界は広い。でも、僕にはそれがわからない。だって全然見えないし。テレビなんかでいろんな世界のことを知ることが出来る。でもそれだってニセモノかもしれない。今どき映画でもいろんなもの作れるし、CGとかで。いくらでもニセモノが作れる世界だ。お母さんや先生が最近僕によく言う。世界は広いんだよって。中学校に行ったら僕の世界はもっと広くなるんだよって。ちょっと意味がわからない。だって世...
2018.12.26 14:0925mプール case 02 作・草場あい子僕が通ってた小学校に25mプールがあった。その頃の僕にとって、それは何よりも大きくて、怖かった。青い世界で水の流れる鈍い音が響く。それは僕を飲み込み、このまま僕をもとの世界へ戻してくれないような気がした。もがいても抜け出すことが出来ない世界。そんな存在。けど、今はその世界が好きだ。あの頃怖いと思っていたあの世界が。あの鈍い音が。手を仰ぐ度に肌に触れる水の振動が。1人の世界が。もとの世界の騒がしい音...
2018.12.25 14:50person 45 作・渡邉大・見かけた人スーツ姿の男性・見かけた場所街中・時間帯12:30頃______________________○名前月島 亮介○年齢36○趣味プラモデル作り○悩み6歳の息子と遊びに行く時間が欲しい______________________今年もクリスマスが来た。翔太はイヴの日にずっと楽しそうにしていた。クリスマスは子供にはとても嬉しいイベントだろう。僕も子供の頃には、はしゃいだ記憶がある。翔太の欲...
2018.12.25 14:5025mプール case 01 作・木庭美生「ねえ、絶対おもしろいよ、明日やってみよ‼︎」彼女はきっと、たぶん、頭が悪い。なんというかとてもシンプルにバカだと言える人だと思う。彼女と僕は、今、夜の学校に侵入している。侵入したと言うかずっといた。学校が終わってからこの時間になるまでずっと。よく先生たちにばれなかったなと思う、もっと校内の見回りとかしっかりするべきだろう。学校のプール。彼女は足を入れてバシャバシャ遊ぶわけではない。意外にも手の先...
2018.12.24 13:05person 44 作・堀愛子松岡美緒(まつおかみお)21歳。カーディガン羽織るだけじゃ足りないみたいね。昼まではあったかかったはずなのに。イブの夜、すっかり冷え込んでる。夕方17時から、コンビニでお酒とおつまみとパンとチキンを買って電車に乗った。歯の白い彼と。キャラメル色の髪の毛と少し焼けた肌。白いスキニーにジージャン。ほぼ毎日会ってるんじゃないかってくらいに会ってるんだけど。ダンスできるでしょ、って言ったら彼は嬉しそうに笑...
2018.12.21 13:50レンタルビデオ case 05 作・堀愛子外はしばらく雨が降っていた。湿った空気が似合わないLEDに照らされた店内はあちらこちらで同じ映画の宣伝映像がリピートされている。窮屈だと思って帰ってきた。昨日、実家に。荷物もろくに持たずに新幹線に乗った。肩まで伸びた茶色の髪の毛は、雨に濡れて三年前にかけたパーマが残っていたことを証明する。深い青色を塗った爪に雨がはじいてキラキラ光る。実家の近くのレンタルビデオ屋は、中学の時の私の「いきつけ」だった...
2018.12.20 14:55レンタルビデオ case 04 作・渡邉大水曜日のお昼頃。バイトが休みなのでレンタルビデオショップで映画コーナーをみていた。僕は、映画をそれなりに観る。といっても僕は、あまり頭がいい訳ではなく、読み取る力がそこまでない。でも、僕は映画が好きだからよく借りにくる。そして今は、僕の手元には同じ監督のビデオが3つある。僕が大好きな映画。1つは、小学生の頃に家族と観に行ってとても好きになった。夢があって、キラキラしてて、登場人物の全員を好きになっ...
2018.12.20 10:10person 43 作・草場あい子20代。男。駅のホーム。ベンチ。僕は僕が嫌いだ。僕はヒーローになりたかった。子供の頃。悪い人を倒して、弱い人を守れるヒーロー。正義のヒーローに。でも、僕はヒーローになれなかった。僕は強くなかったから。けど、それ認めるのが嫌で、強くないって思われるのが嫌で、自分を大きく見せていた。けど、そんなことしてる自分を僕はどんどん嫌いになっていった。いつか聞いた「どんな自分でも受け入れる。それが自分なんだから...
2018.12.19 14:55person 42 作・木庭美生西山智美。29歳。女。朝。かたつむりの匂い。しんどい。つらい。今日も仕事か。あー、しんどい。いつもと同じ。今日が金曜日で明日が土曜日でも関係ない。どうせ明日も仕事。いやー、嫌だわ。すごい嫌。駅前。いつもと同じようにスマホを見る。あ、美佐子またインスタ更新してる。よく続くわ。私4日で更新終わったのに、さすが美佐子。昔からそういうとこあるよね。この間も久しぶりに会えば一瞬でカメラ向けてきたり、あの動き...
2018.12.19 10:35レンタルビデオ case 03 作・草場あい子近所にレンタルビデオ店が出来た。この前まで小さなラーメン屋だったのに。いつの間にかレンタルビデオ店になって驚きだった。そして今、私の世界はパニックだ。私の世界は平凡だった。特に何も無い。だから何となく。暇つぶしで1話借りた。恋愛ドラマ。けど、いつの間にかハマっていた。平凡だった世界で楽しみになっていた。昨日、そのドラマが完結した。最終話。バッドエンドで終わった。予想外だった。予想外すぎて、昨日はよ...