2019.01.31 02:42person 58 作・木庭美生岡本秀馬。24歳。男。自分でびっくりした。電車待ちの時間でふと思ってしまったことに。仕事やめようかな。え、こんなかんじでいいのか。こんな帰りの電車待ちの時間でふと思うことなのか、仕事やめるって。急に思って自分でびっくりする。こんなもんなのか。でもそんな簡単にやめられるものでもないし。仕事そんなに嫌なのかな、俺。ストレス溜まってるのか。でもこんな簡単にやめようかなとか先輩に怒られるか。まだわりと仕事...
2019.01.30 01:09欠伸 case 02 作・草場あい子「どうして泣いてるの?」彼女は心配そうに言った。前の席の彼女。彼女はショートカットが良く似合う。赤みがかった茶色い髪。風が吹くとサラサラと横へなびく綺麗な髪。ピシッとしわのない綺麗なシャツ。腕の部分はまだ線がついている。彼女は小さな変化によく気づく。友達が前髪切ったこと。筆箱変えたこと。気づいて「かわいいね。」って言う。彼女はしっかり者。みんなそう言う。でも、知ってる。彼女は授業中うとうとしてるこ...
2019.01.29 04:12欠伸 case 01 作・木庭美生憧れてたからちょっとショックだった。いつも退屈そうだね、って言われた。否定はできないけど正直高校生男子なんてこんなもんだろ。と思う。基本的に眠いし、退屈そうにも見える。でも退屈そうな俺でもちょっと期待してた。中学生の時から憧れてた。なのに、開放されてないなんて思わなかった。屋上。高校の屋上は不良の溜まり場なんてとこもあれば、綺麗な夕焼けの中で告白だったり学校によって使われ方に違いはあれど開放はされ...
2019.01.28 14:55person 57 作・堀愛子多分この人今、私に飽きてる。なんでそんな私の口元、気になってんの。なんか付いてるのか。いや付いてない。めっちゃ見るね。16歳。女。ドーナッツの話をしてる。ガタンゴトン揺れるセーラー服のリボンを緩ませながら適当に相槌うつ未央。今日の朝、お母さんがスーパーで買ってきた半額のドーナッツ食べてきた話。どうでもいいよ正直。正直どうでもいいけど、これくらいの会話するのが一番いいじゃん。友達。つまらないくらいが...
2019.01.25 03:02駐輪場 case 03 作・堀愛子あ、どうでもいい話していいですか。めっちゃどうでもいいんですけど、ほんと。僕、今、左手の薬指が超絶痛いんです。今日の朝、駐輪場で自転車5、6台ドミノ倒ししちゃって。ひとりで直してたらいつのまにか、この薬指が悲鳴をあげてました。大袈裟だなぁ。いや、だいぶ、痛い。というか、結婚指輪の指ですよね、結婚式、指痛すぎてはめられなかったら、だいぶきつくないですか。今のところ予定は無いですけど。花嫁逃げますよね...
2019.01.25 02:29person 56 作・草場あい子高校生。女。 あと30分。授業が終わるまであと30分もある。斜め前の山田くんがうとうとしながら揺れている。先生の声が右耳から左耳へ通り抜けて、全く頭に入ってこない。黒板の文字をノートに写して、先生が話す。これがずっと繰り返される。いつの間にか、ノートの隅が落書きで埋め尽くされる。黒板の文字を移すのと、落書きで、もう手が痛い。そして手のひらの側面は真っ黒い。消しゴムの摩擦で熱くなって痛い。あ。チョー...
2019.01.24 02:28駐輪場 case 02 作・木庭美生自転車のサドルがブロッコリー。よく耳にするけど、実際に見たことはない。サドルを盗んでブロッコリーをかわりに残すだなんてどんな気持ちなんだろう。やる側もやられる側も。ここの駐輪場は盗難とかでちょっと地元では有名だって聞いたのになかなかなにも起こらない。普通に生きてたらそんなに事件に会うことなんてないと思う。それで自分の毎日が退屈だなんて言う。非日常を期待する。そう思うのは絶対僕だけじゃないはずだ。面...
2019.01.23 11:30駐輪場 case 01 作・草場あい子その自転車はいつも決まった場所に停めてある。私の隣の隣。フレームのところに変なステッカーが貼ってある。それを見てから電車に乗る。7時45分、私の日常。けど、7時45分。隣の隣。その自転車はなかった。あの変なステッカーが貼ってある。どこを見ても。それを見ずに電車に乗る。違和感。朝起きてカーテン開けないぐらいに、階段左足から登ったみたいに、違和感。その自転車の持ち主のこと、全く知らないけれど、その人の...
2019.01.21 14:50person 55 作・堀愛子このジャケット、意外に薄かったりしてる。三嶋。46歳。男。コンビニで買った缶ビールとお菓子とポケットティッシュと漫画にビニル袋の持ち手が限界を感じているのか、指食い込んで痛い。今日は一段と寒い。薄いジャケットの隙間から入り込んでくる冷たい風に、「はい、わかった、わかった」と言いたくなる。京子姉ちゃんからはがきがきた。少し遅めの年賀状。どんどん通り過ぎる知らない街を横目に早く家に帰って、漫画が読みた...
2019.01.18 14:55person 54 作・橋谷一滴手を振っている別れ際もうすぐ改札を隔ててどんどん距離が広がっていくのだろうあー次に会えるのはいつだろうかあ、まって彼女が泣いたうわ、めっちゃ泣くじゃん悲しいー。あ、キスしたそれはやめてほしい。ここ駅だから家じゃないからほら、わたしみたいにあえて見てる人ぐらいしか面白くないからかれこれあのカップルを見初めてはや1時間まだ彼らは帰らない。見ているわたしもわたしだがさすがに粘りすぎじゃないのか定期的にや...
2019.01.18 14:05ワンピース case 04 作・堀愛子夏、背の小さいワンピース姿の女性を見ると今でも彼女のことを思い出す。いやでも連想させてしまう、彼女はたぶん僕の中に10年経った今でも、ふとしたところで現れて、しがみついて、取れない。授業中、ノートも取らずに寝てばっかりの男の子とはしゃぐ彼女に嫉妬していた。むしゃくしゃする気持ちを夏さの暑さのせいにして。視力の悪い彼女が目を細めて黒板を見るたびに僕は必死でノートをとった。席も離れてる、後で見せるわけ...
2019.01.17 14:55person 53 作・草場あい子20代。男。電車。昼。後ろからの陽差しが、暖かくて、乾燥機から出したばかりのタオルケットに、包まれているみたいに心地がいい。電車の振動も、静かにゆっくり聞こえてくる電車の音も、誰かの話し声も、スマホをたたく音も、全て。まぶたを閉じたら眠ってしまいそうなくらいに。幸せな空間。ずっとこのまま乗っていたいと思う。ドアが開く度に入る冷たい風が邪魔をしてこなければ。それは僕の幸せな空間を一瞬にして壊す。遠慮...